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あいつがいなくなって、何年が経つだろうか。
最初は、手間のかかるやつだと思っていた。
同情して助けてあげたら、あいつはちょこちょこと俺に付いてきた。
シッマ、シッマ、と、飽きもせずにいつも笑っていた。
飯がなくて、店のものを盗もうとしたとき
「ひとのものをぬすむのは、わるいことだよ、シッマ。わるいことは、しちゃだめなんだよ」
そう言うあいつは、俺の心をいとも簡単に変えてしまった。
俺には「話して」というくせに、自分のことは話そうとはしなかった。
「わすれちゃった」と、とても辛そうに笑うあいつは、嫌いやった。
あいつは俺の光やった。
闇を知らない、純粋なあいつに、俺は心惹かれたんや。
どこにも行かへんで、そう言ってあいつを抱きしめたとき。
あいつはどんな顔をしていたっけ。
あのときあいつの瞳は、何を映していたのだろうか。
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「どしたんや、シッマ」
バルコニーで煙草を吸っていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「別になんも」
俺は煙草を吸うのをやめ、星を見上げる。
「シッマって、そーゆーとこあるよな」
そう言いながら彼＿＿大先生こと鬱先生は煙草にカチッと火をつける。
「女か？」
笑い混じりにそう言う彼は、きっと俺に女との絡みはないとでも思っているのだろう。
「先帰るわ」
「え、ちょ、待てって、冗談や冗談！」
「……」
「待て、まさか、図星？」
「さあな」
「なにそれ聞いてないんやけど！詳しく！」
「…誰にやって、言いたないことの一つや二つあるわい」
いつもの調子で言おうと思ったけれど、自分で思っているよりも言葉が重く
それを感じ取った大先生は、それ以上は何も聞いてこなかった。
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作者名：えむいー | 作成日時：2024年2月16日 11時
